お金・費用

預貯金の仮払い制度|口座凍結でも150万円まで引き出せる手続き

更新日: 2026/2/27読了: 27分

この記事のまとめ

  • 遺産分割前でも1金融機関あたり150万円まで引き出せる
  • 他の相続人の同意不要で相続人が単独で手続き可能
  • 引き出した金額は遺産分割時に差し引かれる

はじめに

「口座が凍結されて、葬儀費用が払えない」「当面の生活費をどうすればいいのか」——家族を亡くした直後、最も切実な悩みの一つです。

金融機関は口座名義人の死亡を知ると口座を凍結します。凍結されると、遺産分割が終わるまで預金を引き出せないのが原則です。しかし葬儀費用の支払いは待ってくれません。入院費の精算、当面の家賃や光熱費など、すぐに必要なお金がある方も多いはずです。

そこで知っておきたいのが**「仮払い制度」**です。2019年7月施行の民法改正で創設されたこの制度を使えば、遺産分割が完了する前でも一定額の預貯金を引き出すことができます。

この記事では、仮払い制度の仕組み、上限額の計算方法、手続きの流れ、必要書類、そして利用時の注意点を詳しく解説します。

ポイント

仮払い制度は葬儀費用や当面の生活費の確保に活用できます。他の相続人の同意なしで相続人が単独で手続き可能です。

仮払い制度とは

制度の背景

2016年12月の最高裁判所大法廷決定で、「預貯金債権は遺産分割の対象になる」と判断されました。これにより、遺産分割が終わるまで相続人が単独で預貯金を引き出すことが法的にできなくなりました。

しかし現実には、葬儀費用や遺族の当面の生活費など、すぐにお金が必要になる場面があります。遺産分割協議には数か月から1年以上かかることもあり、その間まったくお金を使えないのでは困ってしまいます。

そこで2018年の相続法改正(2019年7月1日施行)で、遺産分割前であっても相続人が単独で預貯金の払い戻しを受けられる制度が新たに設けられました。根拠条文は民法909条の2です。

2つの方法がある

仮払い制度には、次の2つの方法があります。

方法上限額裁判所の関与手続きの簡便さ
金融機関の窓口での払い戻し1金融機関あたり 150万円不要簡単
家庭裁判所の仮処分による払い戻し上限なし必要複雑

多くの場合、まずは金融機関の窓口での払い戻しを検討し、それでは足りない場合に家庭裁判所の手続きを利用するという流れになります。

金融機関の窓口での仮払い

上限額の計算方法

金融機関の窓口で払い戻しを受けられる金額は、口座ごとに以下の式で計算します。

相続開始時の預貯金残高 x 1/3 x 払い戻しを受ける相続人の法定相続分

ただし、1つの金融機関あたり150万円が上限です。複数の口座(普通預金・定期預金など)がある場合は、口座ごとに計算した金額を合計しますが、合計額が150万円を超える場合は150万円までとなります。

計算の具体例

故人がA銀行に普通預金600万円と定期預金540万円を持っていて、払い戻しを受ける相続人の法定相続分が1/2の場合を考えてみます。

普通預金: 600万円 x 1/3 x 1/2 = 100万円

定期預金: 540万円 x 1/3 x 1/2 = 90万円

合計は190万円ですが、1金融機関あたりの上限は150万円なので、実際に引き出せるのは150万円です。

注意

上限150万円は金融機関ごとの計算です。「残高 x 1/3 x 法定相続分」で口座ごとに算出し、合計が150万円を超える場合は150万円までとなります。

もう一つの例

故人がB銀行に普通預金200万円だけを持っていて、法定相続分が1/2の場合:

200万円 x 1/3 x 1/2 = 約33万円

この場合は150万円の上限に達しないため、約33万円が引き出せる金額になります。

複数の金融機関がある場合

上限150万円は金融機関ごとに適用されます。A銀行で150万円、B銀行で150万円というように、取引のある金融機関が複数あれば、それぞれで仮払いを受けることができます。

法定相続分の早見表

計算に使う法定相続分は、相続人の組み合わせによって異なります。

相続人の組み合わせ配偶者の法定相続分子の法定相続分
配偶者 + 子1人1/21/2
配偶者 + 子2人1/2各1/4
配偶者 + 親2/3
配偶者 + 兄弟姉妹3/4
子のみ(1人)全額
子のみ(2人)各1/2

法定相続分の詳細は「遺産分割協議のやり方」で解説しています。

手続きの流れ(金融機関窓口の場合)

ステップ1: 取引金融機関を把握する

まずは故人がどの金融機関に口座を持っていたか把握します。手がかりは以下のとおりです。

ステップ2: 金融機関に連絡する

取引のある金融機関に、口座名義人が亡くなったことを伝えます。この段階で口座は凍結されますが、同時に仮払い制度を利用したい旨を伝えてください。手続き書類を案内してもらえます。

口座凍結の仕組みについては「故人の銀行口座が凍結されたら」で詳しく解説しています。

ステップ3: 必要書類を準備する

金融機関によって多少の違いはありますが、一般的に求められる書類は以下のとおりです。

書類備考
故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本法定相続情報一覧図でも可
相続人全員の戸籍謄本法定相続情報一覧図でも可
払い戻しを受ける相続人の印鑑証明書発行から6か月以内のもの
払い戻しを受ける相続人の本人確認書類運転免許証、マイナンバーカードなど
金融機関所定の払戻請求書金融機関から受け取る

法定相続情報一覧図を法務局で取得しておくと、戸籍謄本の束を何度も提出する手間が省けます。複数の金融機関で手続きする場合は特に便利です。

ステップ4: 窓口で手続きする

書類が揃ったら、金融機関の窓口に提出します。金融機関側で書類の確認と計算が行われ、問題がなければ払い戻しを受けられます。

処理にかかる日数は金融機関によって異なりますが、書類に不備がなければ1〜2週間程度で完了するケースが多いようです。

手続き時のポイント

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家庭裁判所の仮処分による仮払い

金融機関での仮払い上限(150万円)では足りない場合、家庭裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申し立てる方法があります。こちらは金額の上限がありません

根拠条文

家事事件手続法200条3項に基づく手続きです。2018年の相続法改正で要件が緩和され、以前よりも利用しやすくなりました。

利用の要件

家庭裁判所の仮処分を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 遺産分割の調停または審判が申し立てられていること — 仮処分の申立ては、遺産分割の調停・審判と同時に行う必要があります
  2. 払い戻しの必要性があること — 葬儀費用の支払い、相続債務の弁済、生活費の確保など
  3. 他の共同相続人の利益を害しないこと — 払い戻し額が過大で他の相続人の取り分がなくなるような場合は認められません

以前は「急迫の危険を防止するために必要がある場合」という厳しい要件でしたが、改正後は「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるとき」と緩和されています。

手続きの流れ

  1. 家庭裁判所に遺産分割の調停(または審判)を申し立てる
  2. 同時に、預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てる
  3. 裁判所が申立人の収入・生活状況などを考慮して金額を決定する
  4. 決定書をもって金融機関で払い戻しを受ける

金融機関の窓口での仮払いと比べると時間も手間もかかるため、弁護士に相談のうえ進めることをおすすめします。

どちらの方法を選ぶべきか

判断基準金融機関の窓口家庭裁判所の仮処分
必要な金額が150万円以下適している不要
必要な金額が150万円超足りない適している
急いでいる比較的早い時間がかかる
相続人間でトラブルがある利用可能併せて活用
費用無料(書類取得費のみ)申立費用がかかる

多くの場合は金融機関の窓口で対応できます。相続人間で争いがあり、遺産分割の調停を申し立てる予定がある場合は、あわせて仮処分の申立ても検討するとよいでしょう。

銀行口座凍結との関係

故人の銀行口座は、金融機関が死亡の事実を知った時点で凍結されます。凍結されると、預金の引き出し・口座振替・定期預金の解約ができなくなります。

仮払い制度は、この口座凍結の状態であっても預金を引き出せるようにするための制度です。つまり、以下のような流れになります。

  1. 金融機関に死亡を届け出る(口座が凍結される)
  2. 仮払い制度を利用して、必要な資金を引き出す
  3. 遺産分割協議が完了した後、残りの預金について名義変更・解約手続きを行う

注意すべきは、金融機関に死亡を届け出る前にATMなどで預金を引き出してしまうケースです。これは仮払い制度の利用にはあたらず、他の相続人とのトラブルや相続税の調査の原因になりかねません。正規の手続きで進めてください。

口座凍結の仕組みと解除の手順は「故人の銀行口座が凍結されたら」で詳しくまとめています。

なお、凍結前に故人のキャッシュカードで預金を引き出す行為は、法的にはグレーゾーンです。相続人間の合意がない状態での引き出しは、後の遺産分割でトラブルの原因になります。また、税務署は死亡前後の口座取引を確認するため、不自然な出金があると相続税の税務調査で指摘を受ける可能性があります。

葬儀費用や当面の生活費をどう工面するか

仮払い制度以外にも、葬儀費用や生活費を確保する方法があります。

生命保険金

生命保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象にはなりません。そのため、口座凍結の影響を受けず、保険会社への請求手続きが完了すればすぐに受け取れます。詳しくは「生命保険金の請求手続き」をご覧ください。

埋葬料・葬祭費

健康保険や国民健康保険から、葬儀を行った方に給付金が支給されます。金額は埋葬料が5万円、葬祭費が3万~7万円(自治体によって異なる)です。申請しないと受け取れないため、忘れずに手続きしてください。詳しくは「葬儀費用の相場と使える補助金」で解説しています。

遺族年金

故人が年金に加入していた場合、遺族年金を受給できる可能性があります。受給開始までに時間はかかりますが、継続的な生活費の支えになります。「遺族年金の請求ガイド」で手続き方法を確認してください。

死亡後のお金の手続き全体像

葬儀費用・生活費に限らず、受け取れるお金・払うお金の全体像を把握しておくことが大切です。「死亡後のお金の手続きまとめ」で一覧にしています。

注意点

引き出した金額は遺産分割で考慮される

仮払い制度で引き出した預貯金は、遺産の一部分割によって取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。つまり、遺産分割協議の際に「すでに受け取った分」として差し引かれます。

たとえば、法定相続分に基づく取り分が500万円で、仮払いで100万円を引き出していた場合、遺産分割では残りの400万円分を取得することになります。

法定相続分を超えて引き出した場合

仮払い制度で引き出した金額が、最終的な遺産分割での取り分を超えていた場合、超過分を他の相続人に返還する義務が生じます。引き出した金額は必ず記録しておき、何に使ったか明確にしておきましょう。

相続放棄を検討している場合は使わない

仮払い制度で預貯金を引き出すと、相続を承認したとみなされる可能性があります。相続放棄を検討している場合は、仮払い制度の利用は避けてください。相続放棄の期限については「相続放棄の期限と手続き」を確認してください。

使い道の記録を残す

引き出したお金を何に使ったか、領収書や明細を残しておくことが重要です。特に葬儀費用に充てた場合は、葬儀社の領収書を保管してください。遺産分割協議の際に、使途について他の相続人に説明を求められることがあります。

金融機関ごとに手続きが必要

複数の金融機関に口座がある場合は、それぞれの金融機関で個別に手続きを行う必要があります。必要書類も金融機関ごとに微妙に異なる場合があるため、事前に確認してください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 仮払い制度を使うのに、他の相続人の同意は必要ですか?

必要ありません。仮払い制度は、相続人が単独で利用できる制度として設計されています。他の相続人の署名や同意書は不要です。ただし、引き出した金額は遺産分割の際に考慮されるため、後で他の相続人に説明できるように記録を残しておくことをおすすめします。

Q2. ゆうちょ銀行でも仮払い制度は使えますか?

使えます。ゆうちょ銀行を含むすべての金融機関で利用可能です。ゆうちょ銀行の場合も上限は同じで、通常貯金・定額貯金・定期貯金など口座ごとに計算し、ゆうちょ銀行全体で150万円が上限となります。手続きは最寄りの郵便局(貯金窓口)で行えます。

Q3. 仮払い制度の利用に期限はありますか?

民法上、仮払い制度の利用に明確な期限は定められていません。ただし、実際には遺産分割が完了すれば仮払い制度を使う必要はなくなります。また、相続手続き全体の期限(相続税の申告は10か月以内、相続放棄は3か月以内など)を考慮すると、早めに手続きを進めることが大切です。相続手続きの全体的な期限は「相続手続きの全体ガイド」で確認できます。

まとめ

葬儀費用や当面の生活費が必要な場合は、まず金融機関の窓口での仮払いを検討してください。必要書類を早めに準備しておくことで、スムーズに手続きが進みます。

死亡後に必要な手続きの全体像は「家族が亡くなったらやること一覧」にまとめています。

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