パスポートの返納届|死亡後の届出先・必要書類・形見に残す方法
目次
この記事のまとめ
- —旅券法により遺族に返納義務がある
- —届出先はパスポートセンターで手数料無料
- —形見として残す場合はVOID処理で返還可能
はじめに
ご家族が亡くなった後、遺品の整理をしていると故人のパスポート(旅券)が見つかることがあります。「これはどこへ返せばよいのだろう」「返さなければ罰則があるのだろうか」と迷われる方は少なくありません。
結論から言えば、故人のパスポートは旅券法に基づき、最寄りのパスポートセンター(旅券事務所)に返納することが法律上の義務とされています。有効期限内のパスポートは国際的に通用する身分証明書であり、悪用リスクを防ぐためにも早めの手続きが重要です。
この記事では、返納届の届出先・必要書類・手続きの流れから、パスポートを紛失している場合の対応、形見として手元に保管したい場合の「無効処理」まで、わかりやすく解説します。
なお、パスポートの返納届は死後の手続き全体の中で急ぎ度の高い手続きではありません。死亡届や年金の届出など、法的な期限が設けられた手続きを優先しつつ、落ち着いてから取り組んでいただければ十分です。
旅券法における位置づけ — 返納届は法律上の義務
まず「返さなくても問題ないのか」という点を確認しておきます。
旅券法第19条第1項では、旅券(パスポート)の名義人が死亡した場合に、旅券を所持している者(遺族等)が速やかに旅券を返納しなければならないと定めています。これは運転免許証の返納と異なり、遺族に対して直接、法律上の返納義務が課されている点が特徴です。
ただし、実務上は返納を怠った場合の罰則規定が設けられているわけではなく、手続きを行わなかったことで直ちに遺族が刑事罰を受けることにはなりません。とはいえ、法律上の義務として定められている手続きであることは認識しておく必要があります。
パスポートは旅券法第19条で遺族への返納義務が定められている数少ない証明書です。有効期限内のパスポートは強力な身分証明書であり、悪用を防ぐためにも早めに返納してください。
返納が推奨される理由
法律上の義務にとどまらず、実務上も以下の理由から早期の返納が強く推奨されています。
- 身分証・渡航書類としての悪用防止 — 有効期限内のパスポートは、銀行口座の開設や海外渡航に使用できる強力な身分証明書です。第三者の手に渡ると、なりすましによる不正利用や国外逃亡に使われるリスクがあります
- 更新案内・有効期限通知の停止 — 返納しないと、有効期限が近づいた際に更新案内が届くことがあります
- 行政記録の整理 — 旅券事務所の記録上、在外公館への連絡や各種情報の更新が正確に行われます
届出先
故人のパスポートの返納届は、以下の窓口で受け付けています。
| 届出先 | 備考 |
|---|---|
| 都道府県のパスポートセンター(旅券事務所) | 全国の都道府県に設置されている主たる窓口 |
| 市区町村役場の旅券窓口 | パスポートの申請・返納事務を市区町村に委託している都道府県の場合は市区町村役場でも受付可能 |
最も確実なのは都道府県のパスポートセンター(旅券事務所)です。 全国の主要都市に設置されており、予約不要で窓口に直接持参できます。ただし、パスポートセンターは都道府県に複数か所あるものの、数は限られています(東京都内には新宿・池袋・有楽町・立川など複数か所あり)。
市区町村役場での受付については、都道府県によって対応が異なります。住所地を管轄する市区町村役場で取り扱っているかどうか、事前に電話で確認してみてください。
受付時間
パスポートセンターの窓口は平日のみの運営が一般的です(土曜日に一部対応している施設もあります)。受付時間は施設ごとに異なりますが、おおむね以下の通りです。
| 施設の種類 | 受付時間の目安 |
|---|---|
| パスポートセンター(平日) | 9:00〜17:00(16:30受付終了の施設あり) |
| パスポートセンター(土曜日) | 9:00〜17:00(一部施設のみ) |
| 市区町村役場の旅券窓口 | 8:30〜17:15(自治体により異なる) |
訪問前に、必ず各施設の公式サイトまたは電話で受付時間を確認してください。
手続きに必要なもの
返納届の手続きに必要な書類は以下の通りです。
| 必要なもの | 備考 |
|---|---|
| 故人のパスポート | 原本が必要。コピーでは受付不可 |
| 届出人の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど顔写真付きのもの |
| 故人の死亡を証明する書類 | 死亡診断書のコピー、除籍謄本、住民票の除票のいずれか |
| 一般旅券返納届(窓口で入手) | 窓口に備え付けの所定の様式。記入は窓口で行う |
死亡診断書は葬儀の際にコピーを5〜10部取っておくことが推奨されています。原本を死亡届と一緒に役所に提出してしまった場合は、除籍謄本または住民票の除票で代用できます。住民票の除票は故人の住所地の市区町村役場で取得できます(住民票の除票の取り方参照)。
追加で求められる場合がある書類
都道府県や施設によっては、以下の書類を追加で求められることがあります。
- 届出人と故人の関係がわかる書類(戸籍謄本など)
- 届出人の印鑑(認印で可)
二度手間を避けるため、事前にパスポートセンターへ電話で必要書類を確認しておくことを強くおすすめします。
手続きの流れ
ステップ1: 届出先を確認し、事前に電話する
まず、最寄りのパスポートセンターまたは市区町村役場の旅券窓口を調べます。パスポートセンターの所在地と電話番号は、各都道府県の公式ウェブサイトで確認できます。
電話では以下を確認しましょう。
- 返納届の受付を行っているか(施設によっては申請のみで返納は別の窓口という場合がある)
- 必要書類(施設ごとに多少異なる場合あり)
- 受付時間と窓口の場所
- 予約の要否(多くの場合、予約不要)
「故人のパスポートの返納届を出したい」と伝えれば、担当窓口に案内してもらえます。
ステップ2: 窓口で一般旅券返納届を記入する
窓口に「一般旅券返納届」が用意されています。記入する主な項目は以下の通りです。
- 旅券番号・旅券の種類
- 故人の氏名・生年月日・国籍
- 旅券の有効期間
- 返納の理由(「旅券名義人の死亡」を選択)
- 届出人の氏名・住所・連絡先
- 届出人と故人の関係(配偶者、子、父母など)
書き方がわからない場合は、窓口の担当者が教えてくれます。難しい様式ではないので安心してください。
ステップ3: 書類を提出する
記入した返納届、故人のパスポート、必要書類を窓口に提出します。担当者が内容を確認し、問題がなければその場で受理されます。手続き自体は10〜20分程度で完了します。手数料は一切かかりません。
ステップ4: パスポートの処理
提出後、パスポートは旅券事務所で回収・廃棄されます。形見として手元に残したい場合は、書類を提出する前に必ず申し出てください。 一度回収された後では対応できなくなることがあります(詳しくは後述します)。
届出できる人
届出人は、原則として故人の親族または同居者です。配偶者・子・父母・兄弟姉妹・祖父母・孫など、広い範囲の親族が届出人になれます。親族以外の方(成年後見人、遺言執行者など)が届出できるかどうかは、施設の運用によって異なります。
遺族が遠方に住んでいる場合など、代理人による届出が可能かどうかは事前に電話で確認してください。
法的な届出期限
旅券法第19条の定めでは「速やかに」返納しなければならないとされています。法律上、具体的な日数は定められていませんが、有効期限内のパスポートが存在し続けることのリスクを踏まえると、できる限り早めに手続きを行うことが望ましいです。
実務的には、葬儀・死亡届・年金の届出など、より期限が明確な手続きが一段落した後、四十九日の法要前後を目途に手続きする方が多いです。他の行政手続き(世帯主変更届、健康保険の届出など)とまとめて計画を立てると効率的です。
パスポートを紛失している場合の対応
遺品を整理しても故人のパスポートが見当たらない場合は、最寄りのパスポートセンターに連絡し、「パスポートが見つからない」旨を相談してください。
旅券事務所の側で記録上の処理(死亡による旅券の失効の記録)をしてもらうことができます。この場合、パスポートそのものを持参できなくても、以下の書類を持参することで手続きを進められる場合があります。
| 持参するもの | 備考 |
|---|---|
| 死亡を証明する書類 | 死亡診断書のコピー、除籍謄本など |
| 届出人の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど |
| 旅券番号がわかる書類(あれば) | 旅券の申請控え、航空券の控えなど |
旅券番号がわからない場合でも、故人の氏名・生年月日・国籍から旅券事務所の記録を照会できることがほとんどです。まずは電話で状況を説明してみてください。
なお、有効期限内のパスポートが紛失状態にあることは、悪用リスクの観点から特に注意が必要です。第三者がそのパスポートを所持している可能性がある場合は、速やかに旅券事務所に届け出て、記録上の紛失処理(旅券の失効記録)をしてもらうことをおすすめします。
形見として保管したい場合(無効処理)
「写真を見ると元気だった頃を思い出す」「旅先のスタンプが思い出の記録になっている」などの理由で、パスポートを形見として手元に残したいというご要望もあります。その場合は、パスポートを無効化した上で返還してもらうことが可能です。
無効処理(VOID処理)とは
旅券事務所の窓口で「形見として保管したい」と申し出ると、パスポートに**「VOID」(無効)の刻印または穴あけ加工**を施した上で返還してもらえます。これにより、パスポートとしての機能は完全に失われ、身分証明書や渡航書類としては使用できなくなります。無効化されたパスポートは安心して手元に保管できます。
ただし、以下の点に注意してください。
- 対応方法(VOID印の押印・穴あけ等)は施設によって異なります
- 一部の施設では無効処理後の返還に対応していない場合があります
- 顔写真や氏名部分にかからないよう配慮してもらえることが多いですが、保証はありません
事前に電話で「無効処理後に返還してもらえるか」を確認しておくことを強くおすすめします。 一度返納してしまった後では、返還対応が難しくなることがあります。
パスポートを形見として残したい場合は、窓口でVOID(無効)処理を依頼すれば、無効化した上で手元に返還してもらえます。必ず返納前に申し出てください。
手続きの方法
- 通常の返納手続きと同じ書類を持参する
- 窓口で「形見として無効処理後に返還してほしい」旨を伝える
- 担当者がVOID印の押印または穴あけ加工を行う
- 無効化されたパスポートを受け取る
この処理に追加の手数料はかかりません。
マイナンバーカードや運転免許証との違い
故人の公的証明書の返却については、パスポートのほかにも複数の手続きが必要になります。それぞれの比較表を示します。
| 証明書 | 届出先 | 法的根拠 | 遺族への返納義務 | 届出期限 |
|---|---|---|---|---|
| パスポート | パスポートセンター(旅券事務所) | 旅券法第19条 | あり | 速やかに |
| 運転免許証 | 警察署(交通課) | 道路交通法(本人義務) | なし(推奨) | なし |
| マイナンバーカード | 市区町村役場 | 番号法 | なし(推奨) | なし(死亡届で自動失効) |
パスポートは他の証明書と異なり、旅券法により遺族にも返納義務が課されている点が特徴です。運転免許証の返却については「故人の運転免許証の返却」、マイナンバーカードの返却については「故人のマイナンバーカードの返却」をご参照ください。
外国籍の方が日本で亡くなった場合の注意点
日本国籍の方だけでなく、在日外国人の方が亡くなった場合、パスポートの返納手続きは異なります。
外国籍の方のパスポートは日本が発行したものではないため、日本のパスポートセンターへの返納は不要です。その代わり、以下の手続きが必要になります。
外国公館への通知
亡くなった方の出身国の在日大使館または領事館に対して、死亡の事実を通知する必要があります。窓口によって手続きが異なりますが、一般的には以下の書類が求められます。
- 故人の外国旅券(パスポート)の原本
- 日本で取得した死亡診断書(多くの場合、翻訳が必要)
- 届出人の本人確認書類
在日公館の連絡先は外務省のウェブサイト(「在日外国公館リスト」)で確認できます。
在留カードの返納
日本に在留していた外国籍の方が亡くなった場合、在留カードの返納が必要です。亡くなってから14日以内に、故人の住所地の市区町村役場または地方出入国在留管理局(入管)に届け出てください。
在留カードの返納は、死亡届の提出とは別の手続きです。死亡届を提出する際に役所の窓口で確認しておくとスムーズです。
日本で亡くなった外国人の相続
外国籍の方が日本で亡くなった場合の相続については、日本の法律と当該国の法律の両方が関わる場合があります。複雑なケースでは弁護士(国際相続に詳しい方)に相談することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 有効期限が切れているパスポートも返納が必要ですか?
失効したパスポートについては、旅券法第19条の返納義務の対象は「有効な旅券」であるため、有効期限が切れたパスポートについては厳密には返納義務の範囲外とする解釈があります。ただし、解釈は施設によって異なる場合があります。失効したパスポートでも顔写真や氏名の記載は残っているため、悪用リスクを防ぐ観点から、窓口に返納または自宅で裁断・廃棄することをおすすめします。不明な点は最寄りのパスポートセンターに電話で確認してみてください。
Q2. 外国で亡くなった場合のパスポート返納はどうすればよいですか?
日本人が海外で亡くなった場合は、現地の日本大使館または総領事館に連絡します。在外公館がパスポートを回収する手続きを案内してもらえます。遺族が現地に渡航できない場合でも、代理人(現地の関係者)を通じて手続きできる場合があります。帰国後に改めて国内のパスポートセンターで手続きすることも可能ですので、まずは現地の日本大使館・領事館に電話で相談してください。
Q3. 返納届の手続きは代理人でもできますか?
基本的には遺族(親族)が届け出ることが原則ですが、遺族が遠方にいる場合や体調不良などやむを得ない事情がある場合は、代理人による手続きが認められるケースもあります。代理人が手続きする場合は、代理権限を示す委任状や、代理人自身の本人確認書類が必要になるのが一般的です。事前にパスポートセンターに電話で確認し、必要書類を案内してもらってください。
Q4. 手続きをしなかった場合にどうなりますか?
旅券法上は「速やかに返納しなければならない」と定められていますが、現行の法律では返納義務違反に対する具体的な罰則規定は設けられていません。ただし、有効期限内のパスポートが未返納のまま存在することは、なりすましによる不正渡航や身分証の悪用リスクを生じさせます。早めに手続きを行うことが、安全面からも法律の趣旨からも推奨されます。
Q5. 火葬・埋葬許可証などと一緒に一度に手続きを済ませられますか?
パスポートの返納届は市区町村役場ではなくパスポートセンターへの届出のため、死亡届・火葬埋葬許可証や世帯主変更届などとは別に手続きする必要があります。ただし、パスポートセンターへの訪問は1回で完結しますので、必要書類をまとめて持参すれば当日中に済ませることができます。
Q6. パスポートの返納届はどこで手続きできますか?
**都道府県のパスポートセンター(旅券事務所)**が主な届出先です。東京都内であれば新宿・池袋・有楽町・立川などに設置されています。都道府県によってはパスポート事務を市区町村に委託している場合があり、その場合は市区町村役場の旅券窓口でも受付可能です。お住まいの地域のパスポートセンターの所在地は、各都道府県の公式ウェブサイトで確認できます。予約は不要で、手数料もかかりません。
まとめ
故人のパスポートの返納届は、旅券法に基づく法律上の義務です。届出そのものは簡単で手数料もかかりませんが、届出先がパスポートセンター(旅券事務所)に限られるため、場所と受付時間を事前に確認しておくことが重要です。
ポイントを整理します。
- 届出先: 都道府県のパスポートセンター(旅券事務所)または委託を受けた市区町村役場の旅券窓口
- 手続きの名称: 一般旅券返納届
- 必要なもの: 故人のパスポート(原本)、死亡を証明する書類、届出人の本人確認書類
- 届出人: 遺族(親族)
- 手数料: 無料
- 所要時間: 10〜20分程度
- 法的期限: 「速やかに」(具体的な日数の定めはなし)
- 形見としての保管: 窓口で「無効処理後に返還してほしい」と申し出ることで対応可能な場合あり
- パスポートを紛失した場合: 旅券事務所に連絡して記録上の処理を依頼する
- 最寄りのパスポートセンターに電話して必要書類を確認する
- 故人のパスポート(原本)を用意する
- 死亡を証明する書類(死亡診断書コピー・除籍謄本等)を準備する
- 窓口で一般旅券返納届を記入・提出する
死後の手続きは数多くあり、すべてを一度に片付けるのは困難です。まずは死亡届の提出や年金の届出など、法的な期限が明確に設定されている手続きを優先しましょう。パスポートの返納届は期限が比較的柔軟ですが、有効期限内のパスポートが存在し続けることのリスクを踏まえ、できる限り早めに対応することをおすすめします。
何から手をつければよいか迷ったときは、「家族が亡くなったらやること一覧」を参考に、期限のある手続きから順に整理して計画を立ててみてください。
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