相続手続き

限定承認の手続き — 相続放棄との違い・申述方法・期限を解説

更新日: 2026/2/27読了: 28分

この記事のまとめ

  • プラスの財産の範囲内で借金を引き継ぐ方法
  • 相続人全員の同意が必要で3か月以内に申述する
  • 官報公告・清算手続きなど手続きは複雑になる

限定承認とは

限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産(借金・債務)を引き継ぐという相続方法です。

たとえば、故人のプラスの財産が1,000万円、借金が1,500万円だった場合、限定承認をしていれば返済義務は1,000万円まで。差額の500万円を自腹で負担する必要はありません。反対に、借金が800万円しかなければ、差額の200万円は手元に残ります。

相続の方法は3つあります。

方法内容手続き
単純承認プラスもマイナスも無制限に引き継ぐ不要(3か月以内に何もしなければ自動的に成立)
相続放棄プラスもマイナスも一切引き継がない家庭裁判所に申述(各相続人が単独で可能)
限定承認プラスの範囲内でマイナスを引き継ぐ家庭裁判所に申述(相続人全員で共同)

限定承認は「借金がどれくらいあるか分からない」ときに、リスクを限定しながら相続できる方法です。

ポイント

故人の借金の額が不明なときに限定承認は特に有効です。プラスの財産の範囲内でしか借金を引き継がないため、相続放棄と違い財産を残せる可能性があります。

相続放棄との違い

限定承認と相続放棄は、どちらも家庭裁判所への申述が必要で、期限も同じ3か月以内。しかし、中身はかなり異なります。

比較項目限定承認相続放棄
財産の引き継ぎプラスの範囲内で引き継ぐ一切引き継がない
申述の方式相続人全員で共同各相続人が単独で可能
プラスの財産残れば取得できる取得できない
借金の負担プラスの財産が上限負担なし
次順位への影響なし(相続人の地位は維持)あり(次順位の相続人に相続権が移る)
手続きの難易度複雑(官報公告・清算手続きが必要)比較的シンプル
撤回不可不可

最大の違いは「プラスの財産を残せるかどうか」と「全員で行う必要があるかどうか」です。

相続放棄は単独でできますが、限定承認は相続人全員が共同で申述しなければなりません。一人でも反対すれば限定承認は使えない。この点が、実務上のハードルとなっています。

単純承認との違い

単純承認は、故人の財産をプラスもマイナスも無条件で引き継ぐ方法です。特別な手続きは不要で、相続の開始を知った日から3か月以内に限定承認も相続放棄もしなければ、自動的に単純承認したものとみなされます

また、以下の行為をした場合も単純承認とみなされます(法定単純承認)。

単純承認の場合、借金が財産を上回っていても全額を返済する義務があります。限定承認なら、プラスの財産を超える部分は負担しなくて済む。これが最大の違いです。

限定承認のメリット

プラスの財産を超える借金を負担しなくて済む

最大のメリットです。故人に多額の借金がある場合でも、プラスの財産が上限。自分の財産から持ち出す必要がありません。

借金の全体像が不明でも相続できる

「借金があるかもしれないが、どれくらいか分からない」。相続の現場では珍しくない状況です。相続放棄をするとプラスの財産も手放すことになりますが、限定承認なら、借金が少なかった場合にプラスの財産を受け取れます。

先買権で特定の財産を確保できる

限定承認には「先買権」という制度があります。自宅の不動産など手放したくない財産がある場合、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことで、その財産を取得できます(民法932条ただし書)。

相続放棄では、一切の財産を手放すため、自宅を残すといった選択はできません。

次順位の相続人に影響しない

相続放棄をすると、相続権が次の順位の親族に移ります。子が全員放棄すれば親へ、親も放棄すれば兄弟姉妹へ。限定承認の場合は、相続人の地位を維持したまま手続きを進めるので、他の親族に影響が及びません。

限定承認のデメリット

相続人全員の同意が必要

限定承認は相続人全員で共同して行わなければなりません。一人でも「単純承認したい」「相続放棄したい」という人がいれば、限定承認は使えない。相続人間の意見が一致しないケースでは、事実上選択できません。

ただし、一部の相続人が相続放棄をした場合、その人は最初から相続人でなかったものとして扱われます。残りの相続人全員で限定承認を申述することは可能です。

注意

限定承認は相続人全員の同意が必要です。一人でも反対すると手続きできないため、早い段階で全員の意思確認を行いましょう。

手続きが複雑

家庭裁判所への申述だけでは終わりません。申述後に官報公告、債権者への個別催告、相続財産の清算手続きが必要になります。相続放棄に比べて、手間と時間がかかります。

みなし譲渡所得税が発生する場合がある

限定承認を行うと、相続時に被相続人から相続人へ「すべての資産を時価で譲渡した」とみなされます(所得税法59条)。不動産や株式などに含み益がある場合、譲渡所得税が発生する可能性があります。

この税金は被相続人の「準確定申告」として、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納付が必要です。

官報公告の費用がかかる

限定承認後に必要となる官報公告には、数万円の掲載費用がかかります。相続放棄にはない出費です。

手続きの流れ

限定承認の手続きは、大きく「家庭裁判所への申述」と「申述後の清算手続き」に分かれます。

ステップ1: 相続財産の調査

まず故人の財産を洗い出します。限定承認の申述には財産目録の提出が必要なため、プラス・マイナス両方の財産を可能な限り把握します。

調査対象:

ステップ2: 相続人全員の合意

限定承認は相続人全員で共同して行います。全員の意思確認が必要です。一人でも欠けると申述はできません。

相続放棄を希望する人がいる場合は、先にその人に相続放棄の手続きをしてもらい、残りの相続人全員で限定承認を行う方法もあります。

ステップ3: 必要書類の準備

書類取得先
限定承認の申述書裁判所ウェブサイト・家庭裁判所窓口
財産目録自分で作成
故人の出生〜死亡までの連続した戸籍謄本市区町村役場
故人の住民票除票(または戸籍の附票)市区町村役場
申述人全員の戸籍謄本市区町村役場
収入印紙 800円郵便局・コンビニ等
連絡用郵便切手金額は裁判所による

故人との関係(子・親・兄弟姉妹など)によっては、追加の戸籍書類が必要になります。不安な場合は、管轄の家庭裁判所に事前に問い合わせるのが確実です。

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ステップ4: 家庭裁判所に申述する

書類を揃えて、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。郵送での提出も可能です。

申述後、家庭裁判所から「照会書」が届きます。限定承認の意思確認のための書面で、回答して返送します。問題がなければ、限定承認の申述が受理されます。

ステップ5: 官報公告(5日以内)

限定承認が受理されたら、受理から5日以内に官報に公告を出さなければなりません。公告の内容は以下の通りです。

この公告は法律上の義務です(民法927条1項)。あわせて、既に把握している債権者には個別に催告する必要があります。

相続人が複数いる場合は、家庭裁判所が相続人の中から「相続財産管理人」を選任します。選任された場合は、10日以内に公告を行います。

ステップ6: 債権者への弁済・清算

公告期間(2か月以上)の満了後、届け出のあった債権者と既知の債権者に対して、プラスの財産の範囲内で弁済を行います。弁済の優先順位は法律で定められています。

清算が完了し、財産が残っていれば相続人が取得します。

期限は「3か月以内」

限定承認の申述期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。この3か月を「熟慮期間」と呼びます。

項目内容
起算日自己のために相続の開始があったことを知った日
期限起算日から 3か月以内
届出先故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所

期限の延長(熟慮期間の伸長)

3か月以内に判断が難しい場合は、期限が切れる前に家庭裁判所へ「熟慮期間の伸長」を申し立てられます。認められれば、1〜3か月程度の猶予が得られます。

財産調査に時間がかかるケースや、相続人が多くて全員の意思確認に時間がかかるケースでは、早めに伸長を申し立てることが重要です。

なお、3か月以内に相続放棄も限定承認もしないと、自動的に単純承認したものとみなされます。借金がある場合は、全額を負担する義務が生じるため、期限管理は非常に重要です。

相続放棄の期限について詳しくは「相続放棄の期限は3か月」をご覧ください。

官報公告の義務

限定承認の手続きで見落としがちなのが、官報公告の義務です。

限定承認が受理されると、一定期間内(相続人1人の場合は5日以内、相続財産管理人が選任された場合は10日以内)に官報公告を出さなければなりません。

公告の内容

公告の費用

官報への掲載費用は数万円程度(文字数や行数によって変動)。全国官報販売協同組合のウェブサイトから申し込みが可能です。

個別催告の義務

官報公告とは別に、すでに把握している債権者に対しては個別に催告する義務があります(民法927条2項)。これを怠ると、債権者に対する責任が残る可能性があります。

限定承認が有効なケース

故人の借金が不明な場合

相続の現場で最も多いパターンです。「借金があるかもしれないが、いくらか分からない」。相続放棄をすれば安全ですが、プラスの財産まで手放すことになる。限定承認なら、借金がプラスの財産を超えていても、損失を限定できます。

自宅を残したい場合

故人の自宅に住み続けたいが、借金もある——というケースでは、限定承認の先買権が使えます。鑑定評価額を支払えば、自宅を確保できます。相続放棄ではこの選択はできません。

事業を引き継ぎたい場合

故人が個人事業を営んでいた場合、事業用の資産(設備・在庫・取引先との関係など)を引き継ぎつつ、事業上の債務はプラスの財産の範囲内に限定できます。事業の継続を検討している場合は、相続放棄よりも限定承認のほうが現実的な選択肢になり得ます。

相続人が1人の場合

相続人全員の同意が必要という限定承認のハードルは、相続人が1人なら自動的にクリアされます。手続きの複雑さは残りますが、他の相続人との調整が不要なぶん、利用しやすくなります。

費用の目安

項目費用
収入印紙800円
連絡用郵便切手数百円〜(裁判所による)
戸籍謄本等の取得費数百〜数千円
官報公告費数万円程度
合計(自分で手続きする場合)約5万〜8万円
弁護士に依頼する場合30万〜80万円程度

手続きの複雑さから、弁護士に依頼するケースが多い手続きです。

注意点

相続財産に手を付けない

限定承認を検討している間に故人の財産を処分すると、「単純承認」したとみなされる可能性があります。預金の引き出し、不動産の売却、高額な形見分けは避けてください。

財産目録は正確に

申述時に提出する財産目録は正確に作成する必要があります。故意に財産を記載しなかった場合や、相続財産を隠匿・消費した場合は、単純承認したものとみなされます。

みなし譲渡所得税への対応を忘れない

限定承認では所得税法59条により、被相続人が相続開始時の時価で資産を譲渡したとみなされます。不動産や株式などに含み益がある場合、被相続人の「準確定申告」として、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納付する義務があります。この税金も故人の債務として扱われますが、プラスの財産を超える場合は納税義務が免除されます。準確定申告について詳しくは「準確定申告の手続き」をご覧ください。

利用件数は少ない

限定承認の年間利用件数は、相続放棄と比べるとごくわずかです。手続きの複雑さと、相続人全員の同意が必要という条件がハードルとなっているためです。それだけに、限定承認を取り扱った経験のある弁護士など、実務経験のある専門家を選ぶことが重要です。

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よくある質問

Q. 限定承認は一人でもできますか?

相続人が一人であれば、単独で限定承認の申述が可能です。相続人が複数いる場合は全員で共同して行う必要がありますが、一部の相続人が先に相続放棄をすれば、残りの相続人全員で限定承認を申述できます。

Q. 限定承認の後に借金が見つかったらどうなりますか?

官報公告で定めた期間内に申し出がなかった債権者で、限定承認者が把握していなかったものは、残余財産がある場合にのみ権利を行使できます。つまり、清算後に財産が残っていなければ、後から見つかった借金を支払う義務はありません。

Q. 限定承認と相続放棄、どちらを選ぶべきですか?

「明らかに借金が多い」場合は相続放棄がシンプルです。「借金があるか分からない」「自宅など残したい財産がある」場合は限定承認が有効。ただし、限定承認は手続きが複雑で、相続人全員の同意が必要です。判断に迷うなら、弁護士や司法書士に相談して、財産状況を踏まえた助言を受けることをおすすめします。

まとめ

限定承認は「プラスの範囲でマイナスを引き継ぐ」という、バランスの取れた相続方法です。借金の全体像が分からない場合や、自宅を残したい場合に力を発揮します。

ただし、相続人全員の同意が必要で、官報公告や清算手続きまで含めると手続きは複雑。期限は相続を知った日から3か月以内で、相続放棄と同じです。迷っている間に期限が過ぎると単純承認になり、借金を全額負担することになります。

早い段階で財産の調査を始め、限定承認が選択肢になりそうなら、実務経験のある弁護士に相談してください。相続税の申告が必要な場合は「相続税の申告」で期限や手続きの流れを確認できます。

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