固定資産税の届出 — 不動産の所有者が亡くなった場合の手続き
目次
この記事のまとめ
- —現所有者申告は3か月以内に届出が義務
- —届出先は不動産所在地の市区町村役場
- —相続登記が完了すれば現所有者申告は不要
はじめに — 固定資産税の所有者が亡くなったら
固定資産税は、毎年1月1日時点(これを「賦課期日」といいます)で土地や建物を所有している方に課される地方税です。では、その所有者が年の途中で亡くなった場合、固定資産税の取り扱いはどうなるのでしょうか。
結論から言うと、相続人が新たな納税義務者となり、市区町村に届出を行う必要があります。具体的には「現所有者申告」と「相続人代表者指定届出」の2つの手続きがあります。
この届出は2020年の地方税法改正で義務化されました。届出を怠ると過料(罰金のようなもの)が科される場合もあるため、相続が発生したら早めの対応が大切です。
この記事では、固定資産税の届出の種類、届出の方法や期限、必要書類から、相続登記との関係、連帯納税義務の仕組みまで、順を追って詳しく解説します。大切な方を亡くされた悲しみのなかでの手続きは負担が大きいものですが、期限が設けられている手続きですので、この記事を参考に一つずつ進めていただければ幸いです。
現所有者申告とは
「現所有者申告」とは、不動産の登記名義人(登記簿に所有者として記載されている方)が亡くなった場合に、現在その不動産を所有している人(主に相続人)が、市区町村に対して自身が現所有者であることを届け出る手続きです。正式には「固定資産の現所有者申告書」という様式を提出します。
この届出により、市区町村は固定資産税の納税通知書を誰に送ればよいかを正確に把握できるようになります。届出をしなければ、市区町村は亡くなった方の名前のままで納税通知書を発送し続けることになり、適切な課税事務に支障が生じます。
重要な注意点として、現所有者申告は不動産の登記簿上の名義を変更する手続きではありません。登記名義人の変更(いわゆる「名義変更」)には、法務局での相続登記が別途必要です。現所有者申告はあくまで税務上の届出であり、不動産の権利関係を変更するものではないことを理解しておきましょう。相続登記の詳細は「相続登記(不動産の名義変更)」で解説しています。
届出が義務化された背景 — 2020年地方税法改正
2020年度の税制改正(地方税法第384条の3)により、現所有者申告が法律上の義務として明文化されました。改正前も多くの自治体が条例で届出を求めていましたが、法律上の根拠がなく、届出率が低い状態が続いていました。
改正の背景には、日本全国で深刻化する「所有者不明土地」の問題があります。国土交通省の調査によれば、不動産登記簿だけでは所有者の所在が判明しない土地が全国の約20%を占めるとされています。高齢化が進み相続が増える一方で、相続登記がされないまま何世代にもわたって放置される不動産が増え、市区町村が固定資産税を誰に課税すべきか把握できないケースが深刻化していました。
このような状況を改善するため、以下の内容が法律で定められました。
- 市区町村は、登記名義人が死亡している場合、現所有者に対して申告を求めることができる
- 現所有者は、現所有者であることを知った日の翌日から3か月以内に申告しなければならない
- 正当な理由なく届出を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性がある
相続が発生したら、速やかに届出の準備を進めましょう。
現所有者申告は「知った日の翌日から3か月以内」の届出義務があり、正当な理由なく届出を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。
届出先 — 不動産所在地の市区町村
届出先は、不動産が所在する市区町村の資産税課(固定資産税担当課) です。故人の住所地ではなく、あくまで不動産がある場所の自治体が届出先になる点にご注意ください。
| 不動産の所在地 | 届出先 | 担当部署の例 |
|---|---|---|
| 一般の市区町村 | 市区町村役場 | 資産税課・税務課・課税課 |
| 東京23区内 | 不動産所在区の都税事務所 | 固定資産税班 |
| 政令指定都市 | 区役所の税務部門 | 資産税課・市民税課 |
不動産が複数の自治体にまたがる場合は、それぞれの自治体に届出が必要です。たとえば、東京23区内と横浜市の両方に不動産がある場合、都税事務所と横浜市の両方に提出します。故人がどの不動産を所有していたかを事前に確認しておくことが大切です。
担当部署の名称は自治体によって異なります。不明な場合は、市区町村の代表電話に問い合わせれば担当部署を案内してもらえます。
届出期限
現所有者申告の届出期限は、現所有者であることを知った日の翌日から3か月以内です。
多くの場合、「知った日」とは所有者の死亡日(=相続の開始日)を指します。つまり、故人が亡くなってから3か月以内が届出期限の目安となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出期限 | 現所有者であることを知った日の翌日から 3か月以内 |
| 届出を怠った場合 | 正当な理由がなければ 10万円以下の過料 |
| 届出不要になるケース | 期限内に 相続登記が完了 した場合 |
ただし、自治体の条例によって若干の運用の違いが生じることがあります。届出期限に不安がある場合は、不動産の所在する市区町村の資産税課に直接お問い合わせいただくのが確実です。
なお、届出期限内に相続登記が完了していれば、現所有者申告は不要になります。法務局での登記により新所有者の情報が市区町村に共有されるためです。ただし、相続登記には遺産分割協議や書類収集に時間がかかることが多く、3か月以内に完了するのは現実的に難しいケースも少なくありません。その場合は、先に現所有者申告を済ませておきましょう。
必要書類
届出に必要な書類は、一般的に以下のとおりです。自治体ごとに必要書類が異なることがあるため、事前に不動産所在地の市区町村に確認されることをおすすめします。
基本の提出書類
| 書類 | 取得先・備考 |
|---|---|
| 現所有者申告書 | 市区町村の窓口またはウェブサイトからダウンロード |
| 故人の除籍謄本(死亡の記載があるもの) | 本籍地の市区町村役場(1通750円) |
| 相続人の戸籍謄本(故人との関係がわかるもの) | 本籍地の市区町村役場(1通450円) |
| 届出人の本人確認書類(写し) | マイナンバーカード・運転免許証等 |
追加で求められることがある書類
自治体によっては、以下の書類も求められる場合があります。
- 故人の住民票除票 — 故人の最後の住所を確認するため
- 遺産分割協議書の写し — 協議が済んでいる場合に提出を求められることがある
- 遺言書の写し — 遺言により不動産の取得者が指定されている場合
- 相続関係説明図 — 相続人が多い場合に関係を整理する資料として
- 委任状 — 届出を代理人に依頼する場合
戸籍謄本の取得については、2024年3月から始まった広域交付制度を利用すれば、最寄りの市区町村窓口で本籍地が異なる戸籍もまとめて請求できます。故人の出生から死亡までの連続した戸籍を取り寄せる場合は、この制度を活用すると手間が大幅に減ります。
届出の流れ
現所有者申告の手続きは、以下の流れで進めます。特別に難しい手続きではありませんが、書類の準備に時間がかかることがあるため、早めに取りかかりましょう。
ステップ1: 故人が所有していた不動産の確認
まず、故人がどの不動産を所有していたかを確認します。確認方法はいくつかあります。
- 固定資産税の納税通知書 — 毎年4〜6月頃に届くもので、所有する不動産の一覧が記載されています
- 名寄帳(なよせちょう) — 市区町村の資産税課で取得できる、その自治体内の所有不動産の一覧です。相続人であれば請求可能です
- 登記事項証明書 — 法務局で取得できる、不動産の登記情報です
故人が複数の自治体に不動産を所有していた可能性がある場合は、心当たりのある自治体で名寄帳を確認しましょう。
ステップ2: 相続人の確定
故人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)をもとに、法定相続人を確認します。相続人の確定は、固定資産税の届出だけでなく、その後の遺産分割協議や相続登記にも必要となる重要なステップです。
相続人が誰になるかは法律で定められており、配偶者は常に相続人となり、それに加えて子(第1順位)、直系尊属(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)の順で相続人が決まります。
ステップ3: 申告書の入手と記入
市区町村の窓口またはウェブサイトから「現所有者申告書」の用紙を入手し、必要事項を記入します。多くの自治体がウェブサイトからPDF形式でダウンロードできるようにしています。
主な記入項目は以下のとおりです。
- 故人の氏名・住所・死亡年月日
- 対象不動産の所在・地番・家屋番号
- 現所有者(相続人)全員の氏名・住所・電話番号
- 各相続人の法定相続分(遺産分割未了の場合)または取得割合
記入方法がわからない場合は、市区町村の窓口で相談しながら記入することもできます。
ステップ4: 書類の提出
記入した申告書に必要書類を添えて、不動産所在地の市区町村窓口に提出します。提出方法は以下のいずれかです。
- 窓口への持参 — その場で書類の確認を受けられるため安心
- 郵送 — 多くの自治体で郵送提出に対応しています
窓口で提出する場合は、控えに受領印をもらっておくと、届出済みの証拠になります。
- 故人が所有していた不動産を確認する(納税通知書・名寄帳で確認)
- 相続人を確定する(戸籍謄本で確認)
- 現所有者申告書を入手し記入する(市区町村窓口またはWebサイト)
- 除籍謄本・相続人の戸籍謄本・本人確認書類を添付する
- 不動産所在地の市区町村に提出する(3か月以内)
郵送の場合は、返信用封筒と切手を同封して控えの返送を依頼するとよいでしょう。
相続登記との関係 — どちらを先に行うべきか
現所有者申告と相続登記は、どちらも不動産の所有者が亡くなった場合に必要になる手続きですが、目的と届出先が異なります。
| 項目 | 現所有者申告 | 相続登記 |
|---|---|---|
| 目的 | 固定資産税の課税先を市区町村に届け出る | 不動産の登記名義を相続人に変更する |
| 届出先 | 市区町村の資産税課 | 不動産所在地を管轄する法務局 |
| 期限 | 知った日から3か月以内 | 知った日から3年以内(2024年4月義務化) |
| 届出を怠った場合 | 10万円以下の過料 | 10万円以下の過料 |
| 法的効果 | 登記名義は変わらない | 登記名義が相続人に変わる |
相続登記が完了すれば、現所有者申告は不要になります。 法務局での登記情報が市区町村に共有されるため、自動的に新しい所有者に課税が切り替わります。
実務上は、先に現所有者申告を行い、その後に相続登記を進めるのが一般的です。理由は以下のとおりです。
- 現所有者申告の期限(3か月)は、相続登記の期限(3年)よりもはるかに短い
- 相続登記には遺産分割協議の完了が必要なことが多いが、現所有者申告は協議前でも提出できる
- 現所有者申告の必要書類は相続登記に比べて少ない
相続登記は2024年4月から義務化されており、正当な理由なく期限の3年を過ぎると10万円以下の過料の対象になります。固定資産税の届出が終わったら、次のステップとして相続登記にも着手しましょう。
届出期限の3か月以内に相続登記が完了していれば、現所有者申告は不要になります。ただし、実際には遺産分割協議に時間がかかるため、先に現所有者申告を済ませておくのが確実です。
詳しくは「相続登記(不動産の名義変更)」をご覧ください。
誰が固定資産税を払うのか — 相続人の連帯納税義務
不動産の所有者が亡くなると、相続人全員が連帯して納税義務を負います。これは地方税法第10条の2に基づく「連帯納税義務」と呼ばれるものです。
「連帯納税義務」とは、相続人のうち誰か一人に対して税額の全額を請求できるという意味です。たとえば相続人が3人おり、固定資産税が12万円の場合、市区町村は3人のうち誰に対しても12万円の全額を請求することができます。「1人あたり4万円ずつ」に分割されるわけではありません。
この連帯納税義務は、遺産分割協議が完了するまで継続します。つまり、遺産分割協議で「不動産は長男が取得する」と決まるまでの間は、相続人の間で「自分は不動産を相続しないから固定資産税は払わなくてよい」ということにはならないのです。
遺産分割協議が整い相続登記が完了すれば、翌年度の1月1日以降は新しい所有者のみが納税義務者となります。それまでの固定資産税を最終的に誰が負担するかは、相続人同士で遺産分割協議のなかで取り決めるのが一般的です。遺産分割協議の進め方については「遺産分割協議のやり方」で解説しています。
なお、相続放棄をした方は最初から相続人ではなかったものとして扱われるため、連帯納税義務も負いません。相続放棄については「相続放棄の期限と手続き」をご覧ください。
代表納税者の届出
相続人が複数いる場合、市区町村に**「相続人代表者指定届出書」**を提出して、納税通知書を受け取る代表者を届け出ることができます。
届出の効果
代表者を届け出ると、その方の住所・氏名宛てに固定資産税の納税通知書が届くようになります。届出をしない場合は、市区町村が相続人の中から任意に代表者を指定することがあります。市区町村から届出を促す通知が届くこともあるため、その場合は速やかに対応しましょう。
届出と納税義務の関係
代表者を届け出ても、法的な納税義務の範囲は変わりません。前述のとおり、遺産分割が確定するまでは相続人全員に連帯納税義務があります。代表者はあくまで「納税通知書を受け取る窓口」という位置づけであり、代表者だけが固定資産税を負担するという意味ではありません。
届出のタイミング
相続人代表者指定届出書は、現所有者申告書と同時に提出できることが多いため、まとめて手続きを済ませるのが効率的です。自治体によっては、一つの用紙に両方の内容が含まれている場合もあります。届出の様式については、不動産所在地の市区町村にご確認ください。
よくある質問
Q1. 固定資産税の届出をしなかったらどうなりますか?
2020年の地方税法改正により、現所有者申告は義務化されています。正当な理由なく届出を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。また、届出をしないと納税通知書が届かなかったり、亡くなった方の名前のまま届いたりして、結果的に納付が遅れて延滞金が発生するリスクもあります。相続が発生したら、3か月以内に届出を行いましょう。なお、届出を行わなかったからといって、固定資産税の納税義務自体がなくなるわけではありません。相続人は届出の有無にかかわらず納税義務を負います。
Q2. 相続登記をすれば、現所有者申告は不要ですか?
はい、届出期限の3か月以内に相続登記が完了していれば、現所有者申告は原則不要です。法務局での登記情報が市区町村に共有されるためです。ただし、遺産分割協議に時間がかかるなどの理由で3か月以内に相続登記が完了しない場合は、先に現所有者申告を済ませておく必要があります。実務上は、現所有者申告と相続登記の両方を並行して進めるケースが多いです。相続登記の手続きについては「相続登記(不動産の名義変更)」をご確認ください。
Q3. 年の途中で所有者が亡くなった場合、固定資産税は日割り計算されますか?
いいえ、固定資産税は日割り計算されません。固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に対して、その年度の全額が課税されます。年の途中で所有者が亡くなった場合でも、その年度の固定資産税はそのまま全額を納付する必要があります。たとえば4月に亡くなった場合でも、すでにその年度の固定資産税は1月1日時点の所有者(故人)に課税されており、未払い分があれば相続人が連帯して納付義務を引き継ぎます。なお、不動産売買の場合に行われる固定資産税の「日割り精算」は、あくまで当事者間の慣行であり、市区町村に対する納税義務は1月1日の所有者に全額課されます。
まとめ
不動産の所有者が亡くなったら、固定資産税に関して以下の手続きが必要です。
- 現所有者申告 — 3か月以内に不動産所在地の市区町村に届出
- 代表者指定届出 — 納税通知書を受け取る代表者を届出(複数相続人の場合)
- 相続登記 — 3年以内に法務局で不動産の名義変更
現所有者申告は期限(3か月)が短いため、後回しにせず早めに対応しましょう。必要書類は自治体によって異なるため、まずは不動産所在地の市区町村に問い合わせて、申告書の様式と添付書類を確認するのが確実です。
固定資産税の届出は、相続手続きの中の一つのステップに過ぎません。相続が発生した場合は、年金や健康保険、銀行口座など、ほかにも多くの手続きが必要です。相続手続き全体の流れは「相続手続きの全体ガイド」を、相続税の申告については「相続税の申告」を、死亡後のお金の手続き全般は「死亡後のお金の手続きまとめ」をご覧ください。
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