代襲相続とは?孫が相続人になるケースの流れと注意点
目次
この記事のまとめ
- —被相続人より先に子が亡くなっていた場合、孫が代わりに相続人になる
- —相続放棄は代襲相続の原因にならない点に注意
- —孫が代襲相続人の場合、相続税の2割加算は適用されない
はじめに
「父が祖父より先に亡くなっていた場合、孫である自分は相続人になれるのか」——このような疑問を持つ方は少なくありません。
このケースで適用されるのが代襲相続(だいしゅうそうぞく)という制度です。本来の相続人に代わって、その子が相続権を引き継ぐ仕組みで、民法887条2項に規定されています。
この記事では、代襲相続が発生する条件と発生しないケース、相続分の計算方法、手続きに必要な書類、相続税での取り扱いまで、実務に役立つ知識を網羅します。
代襲相続とは
代襲相続とは、本来の相続人(被代襲者)が相続開始時に相続権を持たない一定の事由がある場合に、その子(代襲相続人)が本来の相続人に代わって相続する制度です。
根拠条文は民法887条2項で、次のように定められています。
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。
たとえば、被相続人Aに子Bがいて、Bが既にAより先に亡くなっている場合、Bの子(Aの孫)CがBに代わって相続人になります。
代襲相続が発生する3つのケース
代襲相続が発生するのは、次の3つの場合に限られます。
| 発生原因 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 相続開始前の死亡 | 本来の相続人が被相続人より先に、または同時に死亡していた場合 | 民法887条2項 |
| 相続欠格 | 本来の相続人が民法891条の欠格事由に該当した場合 | 民法887条2項 |
| 相続廃除 | 被相続人の申立てにより家庭裁判所が相続権を剥奪した場合 | 民法887条2項 |
相続開始前の死亡
最も多いケースです。被相続人(祖父母)が亡くなった時点で、すでにその子(父母)が亡くなっていた場合、孫が代襲相続人になります。
なお、被相続人と本来の相続人が同時に死亡した場合(同一の事故で亡くなった場合など)も、代襲相続が発生します。民法32条の2の同時死亡の推定規定により、互いに相続は発生しないため、代襲相続で処理されます。
相続欠格
本来の相続人が被相続人を故意に殺害した場合や、遺言書を偽造・隠匿した場合など、民法891条に定める5つの欠格事由に該当すると、法律上当然に相続権を失います。この場合も、欠格者の子が代襲相続人になります。
相続廃除
被相続人に対する虐待や重大な侮辱があった場合に、被相続人が家庭裁判所に申し立てて相続権を剥奪する制度です(民法892条)。廃除された相続人の子も、代襲相続人になります。
代襲相続が発生しないケース — 相続放棄
相続放棄をした場合、代襲相続は発生しません。相続放棄をした人は「初めから相続人ではなかった」とみなされるため(民法939条)、代襲の前提を欠くからです。
たとえば、被相続人Aの子Bが相続放棄をした場合、Bの子(孫C)がBに代わって相続人になることはありません。
この点は実務上よく誤解されるポイントです。「子が放棄したから孫に相続権が移るのでは」と考える方がいますが、相続放棄は代襲相続の原因として法律に列挙されていません。相続放棄をした場合は、次の順位の相続人(直系尊属や兄弟姉妹)に相続権が移ります。
代襲相続の範囲 — 再代襲の可否
代襲相続の範囲は、本来の相続人が「子」か「兄弟姉妹」かによって大きく異なります。
子の代襲相続:再代襲あり(無制限)
被相続人の子が代襲相続の対象となる場合、孫→ひ孫→玄孫と、直系卑属である限り何代でも再代襲が認められます(民法887条3項)。
例:被相続人Aの子Bが死亡、Bの子(孫)Cも死亡していた場合、Cの子(ひ孫)DがAの相続人になります。
兄弟姉妹の代襲相続:甥・姪までで打ち止め
被相続人の兄弟姉妹が相続人となるケースでは、代襲相続は甥・姪(兄弟姉妹の子)の一代限りです(民法889条2項)。甥・姪の子への再代襲は認められません。
これは、民法889条2項が民法887条2項(代襲相続)のみを準用し、887条3項(再代襲)を準用していないためです。
| 本来の相続人 | 代襲相続人 | 再代襲 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 子(第1順位) | 孫 | あり(ひ孫→玄孫…と無制限) | 民法887条3項 |
| 兄弟姉妹(第3順位) | 甥・姪 | なし | 民法889条2項(887条3項を不準用) |
第2順位の直系尊属(父母・祖父母)には代襲相続の概念はありません。父母が相続人になれない場合は、より上の世代の祖父母が相続人になりますが、これは代襲相続ではなく、直系尊属内での順位の問題です。
代襲相続人の相続分
代襲相続人の相続分は、被代襲者(本来の相続人)が受けるはずだった相続分をそのまま引き継ぎます(民法901条1項)。代襲相続人が複数いる場合は、被代襲者の相続分を均等に分けます。
具体的な計算例
例1: 配偶者と孫2人が相続する場合
被相続人Aに配偶者Wと子Bがいて、BはAより先に死亡。Bには子(Aの孫)C・Dがいる。
- 配偶者Wの相続分:1/2
- Bが受けるはずだった相続分:1/2
- 孫CとDがBの相続分を均等に分ける:各1/4ずつ
遺産が6,000万円なら、W=3,000万円、C=1,500万円、D=1,500万円。
例2: 子2人のうち1人が死亡し、孫3人が代襲する場合
被相続人Aに配偶者Wと子B・Cがいて、BはAより先に死亡。Bには子(Aの孫)D・E・Fがいる。
- 配偶者Wの相続分:1/2
- 子Cの相続分:1/4(子の取り分1/2を2人で均等割り)
- Bが受けるはずだった1/4を孫D・E・Fで均等割り:各1/12ずつ
遺産が6,000万円なら、W=3,000万円、C=1,500万円、D=500万円、E=500万円、F=500万円。
例3: 兄弟姉妹の代襲相続(甥・姪)の場合
被相続人Aに配偶者Wがいて、子も直系尊属もいない。兄弟はBとCで、BはAより先に死亡。Bには子(甥)Dがいる。
- 配偶者Wの相続分:3/4
- 兄弟Cの相続分:1/8(兄弟の取り分1/4を2人で均等割り)
- Bが受けるはずだった1/8を甥Dが引き継ぐ:1/8
代襲相続における手続き
代襲相続が発生すると、通常の相続手続きに比べて必要書類の範囲が広がります。特に戸籍謄本の収集範囲が増えるため、時間に余裕をもって着手することが重要です。
必要な戸籍謄本
通常の相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要です。代襲相続の場合は、これに加えて以下の書類が必要になります。
| 書類 | 目的 |
|---|---|
| 被代襲者(本来の相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 | 被代襲者が被相続人の子であること、および被代襲者の死亡を証明する |
| 代襲相続人の現在の戸籍謄本 | 代襲相続人が被代襲者の子であること、および存命であることを証明する |
| 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 | 通常の相続手続きと同様 |
手続きごとの必要書類
| 手続き | 提出先 | 追加で必要になりやすい書類 |
|---|---|---|
| 銀行口座の相続手続き | 金融機関 | 被代襲者の死亡の記載がある戸籍、代襲相続人の戸籍 |
| 相続登記 | 法務局 | 被代襲者の出生から死亡までの戸籍、相続関係説明図 |
| 相続税の申告 | 税務署 | 代襲相続人であることを証明する戸籍一式 |
法定相続情報一覧図を法務局で作成しておくと、代襲相続の関係を1枚の書面で証明でき、複数の手続きで戸籍謄本の束を提出する手間が省けます。発行手数料は無料です。
遺産分割協議での注意点
代襲相続人が未成年の場合は、特別代理人の選任が必要になることがあります。たとえば、未成年の孫が複数いて全員が代襲相続人となる場合、親権者が代理できるのは1人だけで、残りの子については利益相反が生じます。この場合、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得する
- 被代襲者(亡くなった本来の相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本を取得する
- 代襲相続人全員の現在の戸籍謄本を取得する
- 法定相続情報一覧図を法務局で作成する(推奨)
- 代襲相続人に未成年がいないか確認し、必要に応じて特別代理人を選任する
- 遺産分割協議書に代襲相続人全員が署名・押印する
代襲相続と相続税
代襲相続が発生した場合、相続税の計算にも影響があります。特に注意すべきは2割加算の適用の有無です。
相続税の2割加算とは
相続税の2割加算とは、被相続人の一親等の血族(子・父母)および配偶者以外の人が財産を取得した場合に、算出された相続税額に20%を加算する制度です(相続税法18条1項)。
代襲相続人(孫)の場合
代襲相続によって相続人となった孫は、2割加算の対象になりません。
相続税法18条1項は、2割加算の対象外となる「一親等の血族」について、「代襲して相続人となった直系卑属を含む」と規定しています。つまり、代襲相続人の孫は一親等の血族と同等に扱われ、2割加算の対象外になります。
養子縁組による孫との違い
一方、養子縁組で孫を養子にした場合は注意が必要です。
| ケース | 2割加算 | 根拠 |
|---|---|---|
| 代襲相続で孫が相続人になった場合 | 対象外 | 相続税法18条1項(代襲相続人である直系卑属を除外) |
| 孫を養子にして相続人にした場合(代襲相続でない) | 対象 | 相続税法18条1項(養子となった直系卑属は一親等の血族に含めない) |
孫を養子にしたケースでは、相続を1世代飛ばす効果があるため、2割加算が課されます。ただし、その孫が代襲相続人でもある場合(つまり孫の親=被相続人の子が既に死亡している場合)は、2割加算の対象外です。
孫を養子にした場合の相続税2割加算の判定は複雑です。個別の事情によって結論が変わるため、必ず税理士に相談してください。
基礎控除への影響
代襲相続人も法定相続人の数に含まれるため、基礎控除額の計算に影響します。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 x 法定相続人の数
たとえば、被相続人の子が3人いて、うち1人が既に死亡しその子(孫)が2人いる場合、法定相続人の数は「子2人 + 代襲相続人の孫2人 = 4人」です(亡くなった子は数えず、代襲相続人を数える)。基礎控除額は3,000万円 + 600万円 x 4 = 5,400万円になります。
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よくある質問
Q1. 子が相続放棄をしたら、孫が代襲相続できますか?
できません。相続放棄をした場合、その人は「初めから相続人ではなかった」とみなされます(民法939条)。代襲相続の原因は、相続開始前の死亡・相続欠格・相続廃除の3つに限定されており、相続放棄は含まれません。子が全員相続放棄をした場合は、第2順位の直系尊属(父母・祖父母)が相続人になります。
Q2. 被相続人の養子が先に亡くなった場合、養子の子は代襲相続できますか?
養子の子が養子縁組後に生まれた子であれば、代襲相続できます。一方、養子縁組前に生まれた子(いわゆる連れ子)は代襲相続できません(民法887条2項ただし書き)。養子縁組前に生まれた子は、被相続人の直系卑属にあたらないためです。
Q3. 甥・姪も亡くなっていた場合、その子は代襲相続できますか?
できません。兄弟姉妹が相続人となるケースでの代襲相続は、甥・姪(兄弟姉妹の子)の一代限りです(民法889条2項)。甥・姪の子への再代襲は認められていません。甥・姪も全員亡くなっている場合は、その順位の相続人がいないことになり、法定相続人の範囲が変わります。
Q4. 代襲相続人は遺留分を主張できますか?
はい、代襲相続人は被代襲者の相続人としての地位をそのまま引き継ぐため、遺留分侵害額請求権も行使できます。遺留分の割合は、被代襲者が有するはずだった遺留分と同じです。代襲相続人が複数いる場合は、被代襲者の遺留分を均等に分けます。遺留分の詳細は「遺留分とは?割合・計算方法・侵害額請求の手順」をご覧ください。
まとめ
代襲相続は、本来の相続人が被相続人より先に亡くなっている場合などに、その子が代わりに相続する重要な制度です。
押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 代襲相続の原因は「相続開始前の死亡・相続欠格・相続廃除」の3つ。相続放棄は代襲原因にならない
- 子の代襲相続は孫→ひ孫と何代でも続くが、兄弟姉妹の代襲は甥・姪までで止まる
- 代襲相続人の相続分は、本来の相続人が受けるはずだった分をそのまま引き継ぐ
- 手続きでは被代襲者の戸籍謄本も必要になるため、書類の範囲が広がる
- 代襲相続で孫が相続人になった場合、相続税の2割加算は適用されない
代襲相続が発生すると、戸籍の収集範囲が広がり手続きが煩雑になります。期限のある手続き(相続放棄3か月、相続税申告10か月)を見据えて、早めに着手してください。
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