生前贈与の非課税枠|110万円・2500万円の制度と相続税対策
目次
この記事のまとめ
- —暦年贈与は年間110万円まで贈与税がかからない
- —相続時精算課税制度は累計2,500万円まで贈与税が非課税
- —死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算される(2024年以降段階適用)
はじめに
「相続税が心配だけれど、何か対策はないだろうか」——生前贈与は、計画的に活用すれば相続税の負担を軽減できる有効な手段です。
ただし、制度を正しく理解しないまま進めると、かえって税負担が増えたり、贈与そのものが否認されたりするリスクがあります。
この記事では、暦年贈与・相続時精算課税制度・各種非課税特例について、基本的な仕組みと活用のポイントを解説します。
生前贈与とは
生前贈与とは、生きている間に財産を無償で他者に渡すことです。贈与を受けた側(受贈者)に贈与税がかかる場合があります。
贈与税の課税方式には、暦年課税 と 相続時精算課税 の2つがあります。どちらの方式を選ぶかは贈与者・受贈者の組み合わせごとに選択できますが、一度相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻すことはできません。
暦年贈与(基礎控除110万円)
暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与額の合計が 110万円以下 であれば、贈与税はかかりません(相続税法21条の5)。申告も不要です。
贈与税の税率(暦年課税・一般贈与)
基礎控除後の課税価格に対して、次の税率が適用されます。
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | — |
| 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
18歳以上の者が直系尊属(父母・祖父母)から贈与を受けた場合は「特例税率」が適用され、上記より低い税率となります。
暦年贈与の注意点
- 毎年同じ金額を同じ時期に贈与し続けると、「定期贈与」と見なされるリスクがある — 贈与契約書を毎年作成し、金額や時期をあえて変えるのが安全
- 名義預金に注意 — 受贈者が実質的に管理・使用していない口座への振込は、税務署に贈与と認められない可能性がある
- 現金手渡しは避ける — 銀行振込で記録を残し、贈与契約書とセットで保管する
贈与契約書は毎年作成しましょう。「贈与者○○は受贈者○○に対し、金○○万円を贈与する」という内容に、日付と双方の署名・押印を入れます。書面がなくても贈与自体は成立しますが、税務調査時の証拠として非常に重要です。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度です(相続税法21条の9)。
制度の概要
- 累計 2,500万円 まで贈与税が非課税(特別控除)
- 2,500万円を超えた部分は一律 20% の贈与税
- 贈与者が亡くなったとき、贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算
- 支払った贈与税は相続税から控除される
2024年からの改正ポイント
2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税制度にも 年間110万円の基礎控除 が新設されました。この110万円分は相続財産への加算も不要です。
主な非課税特例
生前贈与には、一定の要件を満たすことで非課税となる特例があります。
教育資金の一括贈与(租税特別措置法70条の2の2)
- 30歳未満の子・孫への教育資金が対象
- 金融機関を通じて一括贈与した場合、受贈者1人あたり 最大1,500万円 まで非課税
- 学校以外の習い事等は500万円が上限
- 適用期限: 2026年3月31日まで
- 受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は適用不可
結婚・子育て資金の一括贈与(租税特別措置法70条の2の3)
- 18歳以上50歳未満の子・孫への結婚・子育て資金が対象
- 受贈者1人あたり 最大1,000万円 まで非課税(結婚費用は300万円が上限)
- 適用期限: 2025年3月31日まで
住宅取得等資金の贈与(租税特別措置法70条の2)
- 18歳以上の子・孫が住宅を取得するための資金が対象
- 省エネ等住宅: 最大1,000万円 非課税
- 一般住宅: 最大500万円 非課税
- 適用期限: 2026年12月31日まで
- 受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること
生前贈与加算(持ち戻し)
相続税の計算では、亡くなる前の一定期間内に行った暦年贈与は相続財産に加算されます。
加算期間の変更(2024年以降)
2024年1月1日以降の贈与から、加算期間が段階的に延長されます。
| 相続開始日 | 加算期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 死亡前3年以内 |
| 2027年〜2030年 | 段階的に延長 |
| 2031年1月1日以降 | 死亡前 7年以内 |
延長された4年間(4〜7年前)の贈与については、合計100万円まで加算対象外となります。
「毎年110万円を贈与すれば絶対に大丈夫」というわけではありません。名義預金と判断されたり、定期贈与と見なされたりすると、贈与の効力が否認される可能性があります。特に多額の財産がある場合は、税理士に相談のうえ計画的に進めましょう。
生前贈与の進め方
効果的な生前贈与を行うためのステップを整理します。
- 現状の財産を把握する — 相続税がかかるか基礎控除額と比較
- 相続人を確認する — 誰にどの程度渡したいかを考える
- 制度を選択する — 暦年課税か相続時精算課税か
- 専門家に相談する — 税理士による試算で最適な方法を選ぶ
- 記録を残す — 贈与契約書の作成と銀行振込による証拠保全
相続税の基礎控除については「相続税の基礎控除とは」で詳しく解説しています。
- 現在の財産総額を概算で把握した
- 相続税の基礎控除額と比較して課税対象か確認した
- 暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利か検討した
- 各種非課税特例の適用可否を確認した
- 贈与契約書を作成し、銀行振込で記録を残した
- 税理士への相談を検討した
まとめ
生前贈与は、正しく活用すれば相続税を大幅に軽減できる有効な手段です。暦年贈与の110万円基礎控除、相続時精算課税の2,500万円特別控除、教育資金・住宅取得資金の非課税特例など、複数の制度を組み合わせることで効果が高まります。
ただし、2024年以降の税制改正で生前贈与加算が7年に延長されるなど、制度は変化しています。贈与以外の方法で認知症に備えた財産管理を行いたい場合は「家族信託」も有効です。多額の財産がある場合は必ず税理士に相談し、計画的に進めることをおすすめします。
相続税の申告手続きについては「相続税の申告手続き」、エンディングノートで財産を整理する方法は「エンディングノートの書き方」をご覧ください。
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