労災保険の遺族補償給付 — 業務災害・通勤災害で亡くなった場合の手続き
目次
この記事のまとめ
- —遺族補償年金・一時金・葬祭料の3種類がある
- —請求先は労働基準監督署で会社の協力は不要
- —葬祭料の請求期限は2年、年金は5年以内
労災保険の遺族給付とは
家族が仕事中の事故や業務に起因する疾病、あるいは通勤途中の事故によって亡くなった場合、労働者災害補償保険(労災保険)から遺族に給付が行われます。
労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)に基づくこの給付は、一般の遺族年金(国民年金・厚生年金)とは別の制度です。会社員であれば原則として全員が対象になりますが、自動的に支払われるものではなく、遺族が自ら請求しなければなりません。
仕事でのできごとが原因で家族を亡くしたとき、受け取れる給付は以下の3種類です。
| 給付の種類 | 内容 |
|---|---|
| 遺族補償年金(遺族年金) | 一定の遺族に毎年支給される年金 |
| 遺族補償一時金(遺族一時金) | 年金を受けられる遺族がいない場合に支給される一時金 |
| 葬祭料(葬祭給付) | 葬儀を行った方に支給される費用補助 |
業務災害の場合は「遺族補償年金」「遺族補償一時金」「葬祭料」、通勤災害の場合は「遺族年金」「遺族一時金」「葬祭給付」という名称になります。内容と金額に違いはありません。以下、業務災害の名称で統一して説明します。
労災保険が適用される「労働者」の範囲
労災保険は、パートタイム・アルバイト・派遣社員・日雇い労働者を含む、すべての労働者に適用されます。雇用形態は問いません。また、外国人労働者も対象です。
一方、以下の方は原則として通常の労災保険の対象外になります。
- 個人事業主・フリーランス: 会社から業務委託を受けているだけでは労働者に該当しない
- 役員のみの業務: 会社役員としての職務中の事故は原則対象外(ただし兼務役員の場合は労働者部分は対象)
- 農業・林業・水産業の一部: 5人未満の事業所は適用除外の場合がある(特別加入制度あり)
特別加入制度
中小事業主、一人親方(建設業・林業・運送業など)、特定農作業従事者などは、労災保険の特別加入により保護を受けられます。特別加入していた場合も、遺族補償給付(特別加入者の場合は「遺族給付」)の対象になります。
遺族補償年金
受給できる遺族の範囲と優先順位
労災保険法第16条の2・第16条の4に基づき、受給できる遺族の範囲と優先順位は次のとおりです。最も順位の高い遺族が受給権者となります。
| 順位 | 受給権者 | 条件 |
|---|---|---|
| 1位 | 妻 | 条件なし(事実婚を含む) |
| 1位 | 60歳以上または障害状態の夫 | 死亡当時に60歳以上、または一定の障害状態 |
| 2位 | 18歳到達年度末までの子(または障害状態の子) | — |
| 3位 | 60歳以上または障害状態の父母 | — |
| 4位 | 18歳到達年度末までの孫(または障害状態の孫) | — |
| 5位 | 60歳以上または障害状態の祖父母 | — |
| 6位 | 18歳到達年度末までの兄弟姉妹(または55歳以上・障害状態の兄弟姉妹) | — |
| 7位 | 55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹 | 支給は60歳から(若年停止) |
「生計を維持していた」ことが基本的な受給要件です。死亡当時に故人と生計を同じくしていた(または故人に生活費を仕送りしていた)こと、また年収850万円未満であることが目安とされています。
受給権者の優先順位は年齢・障害状態の条件が複雑です。「自分は対象外だろう」と思い込まず、必ず労働基準監督署の窓口で確認してもらいましょう。
妻については年齢・収入に関わらず受給できる点が、公的年金制度と異なる大きな特徴です。
年金額の計算方法
年金額は「給付基礎日額」をもとに計算されます。給付基礎日額とは、原則として故人の死亡前3か月間の賃金総額をその期間の日数で割った金額です(労災保険法第8条)。
| 受給権者 | 年金額 |
|---|---|
| 受給権者が1人(妻以外) | 給付基礎日額の153日分 |
| 受給権者が1人(妻) | 給付基礎日額の153日分 |
| 受給権者が2人 | 給付基礎日額の201日分 |
| 受給権者が3人 | 給付基礎日額の223日分 |
| 受給権者が4人以上 | 給付基礎日額の245日分 |
さらに、受給権者が妻(55歳以上または一定の障害状態)で、他に生計を同じくする受給資格者がいない場合は、給付基礎日額の22日分が加算され、年金額は153日分から175日分となります。
計算例: 給付基礎日額が1万円で、妻が1人の受給権者の場合
- 基本額: 10,000円 × 153日 = 153万円/年
実際の給付基礎日額は個人の賃金によって異なり、計算は複雑になることも多いため、労働基準監督署に試算を依頼するのが確実です。
給付基礎日額の計算は複雑なため、労働基準監督署の窓口で試算を依頼するのが確実です。故人の給与明細や源泉徴収票を持参してください。
受給権の消滅
次のいずれかに該当すると、受給権が消滅します(労災保険法第16条の4)。
- 死亡したとき
- 婚姻したとき(事実婚を含む)
- 離縁により死亡した労働者との親族関係が終了したとき
- 子・孫・兄弟姉妹の場合: 18歳到達年度末を過ぎたとき(障害状態を除く)
特別支給金(特別遺族補償年金・特別遺族補償一時金)
労災保険には、保険給付に上乗せして支給される「特別支給金」があります。保険給付と同様に請求でき、別途申請が必要です。
| 特別支給金の種類 | 支給額 |
|---|---|
| 特別遺族補償年金(業務災害) | 遺族の人数により算定基礎日額の153日分〜245日分 |
| 特別遺族年金(通勤災害) | 同上 |
| 特別遺族補償一時金(業務災害) | 300万円(定額) |
| 特別遺族一時金(通勤災害) | 300万円(定額) |
特別支給金は社会復帰促進等事業に基づくものであり、税法上の扱いも通常の補償給付と異なります(非課税)。請求書は遺族補償年金支給請求書と同じ様式に含まれており、同時に申請できます。
遺族補償一時金
支給される場合
遺族補償一時金(労災保険法第16条の6)は、次のいずれかの場合に支給されます。
- 労働者の死亡当時、遺族補償年金を受けられる遺族がいないとき
- 遺族補償年金の受給権者が全員失権し、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1,000日分に満たないとき
支給額
給付基礎日額の1,000日分
ただし、すでに遺族補償年金が支給されている場合は、1,000日分から既支給の年金額を差し引いた額になります。
葬祭料(葬祭給付)
支給される場合
業務上の死亡または通勤による死亡の場合、葬儀を行った方(通常は遺族)に支給されます(労災保険法第17条)。
支給額
次のいずれか高い方の額が支給されます。
| 計算方法 | 金額 |
|---|---|
| 原則 | 315,000円 + 給付基礎日額の30日分 |
| 最低保障 | 給付基礎日額の60日分 |
計算例: 給付基礎日額が1万円の場合
- 原則: 315,000円 + 300,000円 = 615,000円
- 最低保障: 10,000円 × 60日 = 600,000円
- 支給額: 615,000円(原則が高いため)
実際の葬儀費用が支給額を下回る場合でも、葬祭料は定額で支給されます。
葬祭料の請求書は様式第16号(業務災害)または様式第16号の10(通勤災害)です。葬儀を行った方(会社や親族)が請求人になります。会社が葬儀を執り行った場合は会社が請求できますが、実際には遺族が行うケースがほとんどです。
一般的な相場や補助制度については「葬儀費用の相場と補助金制度」もあわせてご覧ください。
請求手続き
請求先
最寄りの労働基準監督署です。年金事務所ではなく、また職場の所在地を管轄する監督署が窓口になります。
故人が働いていた事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に請求します(通勤災害の場合も同様)。監督署の所在地は厚生労働省のウェブサイト、または「労働基準監督署 ○○市」と検索すると確認できます。
必要書類
| 書類 | 取得先 |
|---|---|
| 遺族補償年金支給請求書(様式第12号)/ 葬祭料請求書(様式第16号) | 労働基準監督署または厚生労働省ウェブサイト |
| 死亡診断書または死体検案書のコピー | 病院 |
| 戸籍謄本(故人と請求者の関係を証明) | 市区町村役場 |
| 住民票(請求者全員分) | 市区町村役場 |
| 故人の住民票除票 | 市区町村役場 |
| 請求者名義の振込先通帳のコピー | — |
| 事業主の証明(様式内の証明欄) | 勤務先 |
業務災害か通勤災害かによって、追加書類(タイムカード・出勤記録、事故状況報告書など)を求められることがあります。事前に監督署に電話で確認するとスムーズです。
会社が労災申請に非協力的な場合でも、遺族が直接監督署に請求できます。事業主の証明がなくても「事業主が証明を拒否した」旨を記載して提出することが可能です。
請求期限
| 給付の種類 | 時効(請求期限) |
|---|---|
| 遺族補償年金 | 死亡日の翌日から 5年 |
| 遺族補償一時金 | 死亡日の翌日から 5年 |
| 葬祭料 | 葬祭を行った日の翌日から 2年 |
葬祭料の請求期限は2年と短いため、早急に手続きを進めてください。
「業務上」かどうかの認定
遺族給付が支給されるのは、死亡が「業務上の災害」または「通勤災害」と認定された場合に限られます。
業務上の災害として認定されるケース
- 工場・建設現場などでの事故
- 長時間残業によるくも膜下出血・心筋梗塞(過労死)
- 業務上の強いストレスによる精神疾患の発症後の自死
- 業務に関連した感染症(じん肺、熱中症など職業性疾病)
認定基準は業種・疾病によって異なり、過労死・過労自死については厚生労働省が「過労死等の労災認定基準」を定めています(2021年9月改定)。
認定が難しいと感じたら
労働基準監督署の判断に不服がある場合は、処分書を受け取ってから60日以内に審査請求(都道府県労働局)、さらに不服があれば再審査請求(労働保険審査会)ができます。弁護士や社会保険労務士への相談も有効です。
遺族年金との併給調整
労災の遺族補償年金と、公的年金制度の遺族厚生年金・遺族基礎年金は同時に受け取ることが可能です。ただし、完全に全額受給できるわけではなく、調整が行われます。
具体的には、遺族補償年金の額を減額する形で調整されます(年金の種類・受給状況によって調整率は異なります)。労働基準監督署と年金事務所の両方で手続きを行い、それぞれに状況を申告する必要があります。
遺族厚生年金の詳細は「遺族年金の手続き — 受給条件・申請方法・受給額をやさしく解説」をあわせてご覧ください。
手続きの流れまとめ
- 死亡の事実確認・会社への連絡: 業務中・通勤中の死亡を会社に連絡し、労災申請の意向を伝える
- 監督署への事前相談: 管轄の労働基準監督署に電話し、必要書類と手続きの流れを確認する
- 書類の収集: 戸籍謄本、住民票、死亡診断書のコピーなど
- 請求書の記入・事業主証明の取得: 会社に証明欄への記入を依頼する
- 監督署に提出: 窓口に持参、または郵送。受付後に調査・審査が行われる
- 認定・支給: 認定されると遺族補償年金の支給が始まる(葬祭料は一時払い)
審査には通常数か月程度かかります。調査が必要な案件(過労死・認定基準が問題になる案件)では半年以上かかることもあります。
税金の扱い
遺族補償給付は非課税
労災保険の遺族補償年金・遺族補償一時金・葬祭料はすべて非課税です(所得税法第9条第1項第17号)。相続税の課税対象にもなりません。生命保険の死亡保険金とは扱いが異なる点を押さえておいてください。
会社からの見舞金・慰謝料との関係
会社側から支払われる見舞金や損害賠償金(慰謝料・逸失利益など)は、労災保険給付とは別物です。損害賠償請求を行う際は、受け取った労災給付額が損害額から控除される場合があります(損益相殺)。具体的な計算は弁護士に確認してください。
よくある質問
Q1. パートタイム・アルバイトでも労災の遺族給付を受けられますか?
受けられます。労災保険は雇用形態に関わらず、すべての労働者に適用されます。パートタイム、アルバイト、派遣社員、日雇い労働者であっても、業務中または通勤中の死亡であれば遺族補償給付の対象です。給付基礎日額は実際の賃金をもとに計算されます。
Q2. 会社が「労災を申請しないでほしい」と言ってきました。どうすればよいですか?
遺族が直接、労働基準監督署に請求できます。労災保険の請求は、会社の同意を必要としません。事業主の証明欄への記入を拒否された場合でも、その旨を記載して請求書を提出することが認められています(労働基準監督署が事業主に確認します)。「労災隠し」は労働安全衛生法違反であり、会社側にリスクがあります。
Q3. 遺族補償年金の「給付基礎日額」はどうやって確認すればよいですか?
給付基礎日額は、原則として死亡前3か月間の賃金総額 ÷ その期間の暦日数で算出されます。具体的には、会社の給与明細や源泉徴収票が参考になります。労働基準監督署の窓口で、会社に照会して計算してもらうことも可能です。賞与の扱いや最低保障額など、詳細なルールがあるため、不明な点は監督署に直接確認してください。
Q4. 遺族補償年金を受け取っていた妻が再婚した場合、どうなりますか?
受給権が消滅します(労災保険法第16条の4第1項第2号)。事実婚を含むため、籍を入れていなくても同居・生活実態がある場合は対象となります。再婚した場合は速やかに労働基準監督署に届け出てください。
Q5. 労災認定の審査中に葬儀を行った場合、葬祭料はいつ請求できますか?
労災認定の前であっても葬祭料の請求は可能です。ただし、支給されるのは労災認定後になります。葬祭料の請求期限は葬祭を行った日の翌日から2年と短いため、認定の見通しが立ってから請求しようと待っていると期限を過ぎてしまうことがあります。できる限り早期に請求書を提出しておくことをおすすめします。
まとめ
業務災害・通勤災害で家族を亡くした場合の主な給付は、遺族補償年金・遺族補償一時金・葬祭料の3種類です。
- 請求先: 管轄の労働基準監督署
- 葬祭料の期限: 葬祭を行った日の翌日から 2年以内
- 遺族補償年金・一時金の期限: 死亡日の翌日から 5年以内
- 会社の協力がなくても、遺族は直接請求できる
遺族補償年金は公的年金の遺族年金と別に受給でき(調整あり)、受け取れる金額は決して小さくありません。「どうせもらえない」と諦める前に、まず管轄の労働基準監督署に相談することを強くすすめます。
- 遺族補償年金を請求する(期限: 死亡日の翌日から5年以内)
- 葬祭料を請求する(期限: 葬祭を行った日の翌日から2年以内)
- 特別支給金(遺族特別年金・一時金)を同時に申請する
- 遺族厚生年金との併給調整を年金事務所でも確認する
死亡後のお金関連の手続き全体については「死亡後のお金の手続きまとめ」を、健康保険の手続きは「健康保険の資格喪失手続き」をあわせてご覧ください。
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